みなさんは起立性調節障害という病気をご存じでしょうか。
起立性調節障害(OD:Orthostatic Dysregulation)とは、自律神経のバランスが崩れることで立ちくらみ、めまいや動悸、失神など様々な症状が現れる循環器系の疾患です。
日常生活でできる工夫を並行しておこなうことで、少しでも症状を和らげることが期待できます。
今回は、作業療法士の観点から、家庭でできる起立性調節障害に対する効果的な作業療法を紹介していきます。
- 資格:作業療法士
- 経歴:回復期リハビリテーション→通所リハビリテーション →訪問リハビリテーション
身体の動かし方にポイントはある?
寝た状態から立った状態へと急激に姿勢変換することは、血圧が急降下してしまい、めまいや失神を引き起こす原因にもなります。
そのため、急に姿勢変換をしたり、準備運動もせずにいきなり運動することは避けるべきです。
寝た状態からいきなり立つのではなく、まず座ってから立つようにしましょう。
起立時は30秒ぐらいかけてゆっくりと身体を起こしていきます。
また、ウォーキングの際は、前かがみの姿勢で頭を下げて動き出すとよいでしょう。
運動する際も、いきなり体を動かすのではなく、手や指、足先などの体の末端から少しずつ動かしていき、徐々に腕や足などの体の大きい部分を動かしていくと、血圧の急降下を防ぐことができます。
起立時に異変を感じた時は足を交差させたり、しゃがむことで失神を予防できますよ。
起立性調節障害に効果のある作業療法とは?
起立性調節障害の治療のポイントをお伝えしたところで、次は起立性調節障害に効果のある作業療法を紹介していきます。
運動療法
まず一つ目は運動療法です。
運動療法はウォーキングや水泳など様々な方法がありますが、いきなり激しい運動をするのではなく、まずは家の中を歩いたり、家の周りを散歩するなどの軽い運動から始めましょう。
なぜなら、いきなり激しい運動をしてしまうと血圧の急降下を招いてしまうため、まずは運動する習慣をつけるために軽い運動に取り組むことから始めましょう。
歩くこと自体がきつい方は、座った状態で足踏みをしたり、寝た状態でお尻上げや体起こしなど、簡単にできる運動から始めていくのがおすすめです。
寝た状態でも体を動かすことはできますし、いきなり立ったり歩いて運動することはありません。
運動する習慣がついてきて、運動の際に血圧低下やめまい、失神が起きないようになってきたら、初めて運動の強度を上げていきます。
ウォーキングであれば歩く距離や時間を増やしたり、水泳であれば水中を歩いていた状態から軽く泳ぎ始めてみるなど、段階を踏んで運動強度を上げていきましょう。
自分の体の状態を把握して、できる範囲で運動する習慣をつけていくことが大切です。
起立調節訓練法(チルトトレーニング)
二つ目は起立調節訓練法(チルトトレーニング)です。
この訓練法は起立性調節障害の治療で用いられる代表的な作業療法です。
これから具体的なやり方を説明していきますね。
- 壁に背中をつけて、かかとを壁から約15~20cm離します。
- 次に、お尻と背中を壁につけて、下半身を動かさない状態で立ち、30分間キープします。
壁に背中をつけることで、立った状態でもふらふらせずに姿勢が安定していきます。
かかとを壁から離すことで、重心をかかとに移動させ、体感の重さをかかとに移します。
この状態をキープすることで、体幹を強化していきます。
お尻と背中を壁に密着させることで、かかと以外にもお尻と背中に接着面が生まれます。
接着面を増やすことで、かかとだけでは不安定だった体感のバランスが安定し、姿勢を良い状態に保つことができます。
下半身を静止した状態で30分間キープすることは、体幹の強化だけでなく、太ももやふくらはぎ、お尻の筋肉を鍛えることにもなります。
安定した状態で立つということは、体幹以外にも下半身の筋肉をすべて使うため、筋肉を強化することで安定して立てるようになります。
訓練の目安は1日2回行い、問題なく立てるようになれば1日1回、毎日続けていくことをおすすめします。
難しい場合は、短い時間からに。無理しないでくださいね。
(症状が悪化する場合は中止してください)
作業療法と民間療法は併用すべき?
最後に、今まで取り組んできた民間療法と、今回紹介した作業療法を併用していくべきかについて、詳しく紹介していきます。
併用していくこと自体は問題ない
水分や睡眠の十分な摂取、光を浴びるなどの患者さん自身でも取り組める民間療法と、今回紹介した運動療法や起立調節訓練法(チルトトレーニング)を併用していくことは特に問題はありません。
患者さん自ら治療していくアプローチ法と、作業療法士のような専門家が治療していくアプローチ法を同時に行うことで、より効果的に症状改善につなげていく事ができます。
無理はしすぎない
ただし、民間療法と作業療法を併用していく際の注意点として、患者さん自身が無理をしないことです。
早く症状を改善したいからと言って、一気にすべての治療法に取り組むと体に負担をかけてしまいます。
まずは自分で無理のない範囲でできる治療法から取り組み、体の負担を考えながら新たな治療法に取り組むように心がけましょう。
まとめ
今回は起立性調節障害に対する作業療法を紹介してきました。
効果のある作業療法は運動療法と起立調節訓練法(チルトトレーニング)の2種類があります。
生活習慣の改善とともに、専門家の指導のもとで作業療法を検討してみてはいかがでしょうか。